レポート・コラム

【政策への視点】DX・GXとネットワーク改革(2023年4月3日)

DX・GXとネットワーク改革

宮脇淳

2000 年代に入ってからのICT(Information and Communication Technology)やDX(Digital Transformation)の急速な進展、コロナ禍を経ての生活スタイルや働き方などの社会変革、さらにGX(Green Transformation)を含めたグローバルな環境対応の変化などが、18世紀後半から生じた産業革命以上の変革を人々や企業に与え始めています。とくに日本においては、2000年代に入ってから低下し続けている生産性の向上を通じた国際競争力の回復と強化を成し遂げ持続的成長に結び付けるチャンスであるとともに、対応が適切でなければ先進国から中進国に移行する分岐点ともなりえます。

1. DX、GXの意義と先行事例

 DXは単なるデジタル化ではなく、データとデジタル技術を活用して顧客や社会のニーズを基に製品、サービスそしてビジネスモデルを変革し、業務自体、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立することを意味します(経済産業省「DXレポート2(中間とりまとめ)」2020年12月)。
 DXが求められる背景には、①ICTの急速な進展による社会ニーズ・行動の変化、②労働制約の一段の強まり等があります。これまでの先行事例として①運転スキルや運転傾向を含めた事故リスクのAI測定を組み込んだ自動車保険モデル、②AIを活用したタクシーの配車システムの形成、③建設機材の稼働率低下から故障を把握するシステムの展開など多くをあげることができます。いずれも単なるデジタル化や自動化ではなく、たとえば前述のタクシーDXでもタクシーを呼ぶお客さんの行動、タクシー運転者のお客さんを求める行動、タクシー乗り場の姿、配車全体の流れなど様々な行動に変化をもたらします。
 一方でGXは、2050年カーボンニュートラルや30年の温室効果ガス排出削減目標達成への取組を経済成長の好機と捉え、排出削減と産業競争力の向上の実現に向けた経済社会全体の変革に取り組むことです(経済産業省「GXリーグ基本構想」2022年2月)。先行事例としては、①ライフサイクルのCO2ゼロチャレンジ、工場CO2ゼロチャレンジ等に取り組む自動車製造業、②通信業による所有ビルや施設への蓄電池設置や電気自動車の積極導入、③電力会社による発電時CO2排出ゼロシステムの構築等があげられます。

2. DX、GXの共通点

 しかし、DXとGXは別物ではありません。政府が提示している2050年カーボンニュートラル戦略でも、デジタルインフラの拡大が大きな課題とされています。クリーンエネルギーだけで製品や農産物を作るあるいはサービス提供するには、業務フローも含めたデジタル技術が不可欠となります。会社全体のライフサイクル、製造ライン、そして製品自体のCO2ゼロ等セグメントごとに進めるためにも、各セグメント間で連携を構築し最終的に組み合わせることで全社的あるいは地域的なGXとDXの有機体を形成することができます。先のタクシーの配車の例でも、DXにより配車に伴う人間行動が変われば、タクシーが空車で流すパターンも変化しCO2の排出が減少する。それだけではなく、最終的に道路インフラや公共交通システムにも変革をもたらし地域経済を進化させます。

3. ネットワークの視点、伝達と蓄積

 DXやGXの先行事例は、どんどん生まれています。しかし、個別の企業や地域で活用する場合、単なる先行事例のコピーでは持続的成果は期待できません。DXやGXの根底にある共通要素は何かを認識し、そこに働き掛けることで人間行動変革に向けた持続的成果が可能となります。DX、GXに共通する要素は何か。それは、「ネットワーク」です。DXは、データのネットワークとそれに基づく人間行動の結びつき、GXはCO2排出ゼロの経済活動ネットワークとそれに基づく人間行動です。ネットワークは「点と点を線で結ぶこと」であり、点と点の結びつきを通じたデータやエネルギーの伝達と蓄積の在り方を変えていくことがDXそしてGXの本質となります。働きかける対象が異なってもDX、GXの本質は「伝達と蓄積」の変革であり、それによる人の意思決定と行動を変えていくことです。

4. 潜在的持続力を生み出す政策

 国全体、地域、企業などの組織を問わず潜在的持続力を精査する要素は、「労働力+ 資金力+ 情報力+技術力」にあります。2000年代の日本は言うまでもなく労働力には大きな制約が生じ、資金力もグローバル化の中で変化します。この二つの制約による持続力の低下を克服するのが情報力と技術力です。そして、この二つを融合させ「情報力+技術力」から「情報力×技術力」にする大きな役割を果たすのがネットワークであり蓄積と伝達の視点です。この融合を政策的に推進する強いトリガーとして、DXとGXの推進があります。

宮脇淳(みやわきあつし)
株式会社日本政策総研代表取締役社長
北海道大学名誉教授

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