レポート・コラム

【公共コンサルの視点】アナログ規制見直しにかかる留意点―「規制の洗い出し」に着目して

アナログ規制見直しにかかる留意点
―「規制の洗い出し」に着目して

竹田圭助
1.はじめに

 国ではデジタル臨時行政調査会を通じて、デジタル原則に基づくアナログ規制見直しを進めている。このアナログ規制見直しは、①目視、②実地監査、③定期検査・点検、④常駐・専任などのアナログ規制7類型を対象に、デジタル技術を活用した規制対応を可能とする横断的な改革である。今後地方自治体にも例規見直しを含め大きな影響を及ぼす。
 今回のアナログ規制見直しの代表的なアプローチに例規システムのキーワード検索によりアナログ規制を特定する手法がある。ただし、キーワード検索で出現するアナログ規制候補数と実際のアナログ規制条項には一定の乖離が生じる。このため、この乖離具合を認識し、重点的にチェックするポイントを見定めることが必要である。

2. アナログ規制見直しの概要

 わが国の行政や社会、産業の基本的な構造を形作る法制度やルールは、多くがデジタル技術の登場以前に確立されたものである。このため書面・対面といったアナログ的な手法が事実上の前提となっている。官民問わず人手不足が進む我が国においては、生産性向上や人手の代替としてデジタル技術の活用はさらに重要となる。こうした背景を踏まえデジタル庁は「地方公共団体におけるアナログ規制の点検・見直しマニュアル【第1.0版】」(以下「マニュアル」という)として令和4年11月に公表した。
 同マニュアルに基づき自治体におけるアナログ規制見直しの流れを概観すると、推進体制の構築、点検・見直し方針の策定、規制の洗い出しと類型・フェーズの当てはめ、見直しの検討・実施となる。

3. 規制の洗い出しにおける留意点

以上のアナログ規制見直しのプロセスの中でも、「規制の洗い出し」に留意したい。その理由を説明するため、ここではマニュアルに沿って試行的にアナログ規制候補数を例規データベースから整理する(以下は筆者がCIO補佐官を務める福島県南相馬市の例示)。

図表1:南相馬市におけるアナログ規制候補数

(資料)ぎょうせい「政策法務支援システム」検索結果より筆者作成

 規制の洗い出し段階で留意したいのは、上記データはあくまで候補数を示すものであり、実際のアナログ規制数とは異なる点である。こうした差異が発生する要因はキーワード検索という手法の限界にある。例えば「書面掲示規制」の検索ワードの一つである「掲げ」で検索してみると、その結果は「第○項に掲げる」や「次の各号に掲げる事務」、「次に掲げる用語の意味」等のアナログ規制ではないものが含まれるためである。
 なお、国法令における各アナログ規制条項は2022年12月時点で、以下のとおりである。

規制類型

目視

実地監査

定期検査・点検

常駐・専任

対面講習

書面掲示

往訪閲覧・縦覧

合計

条項数

2927

74

1034

1062

217

772

1446

7532

比率

39%

1%

14%

14%

3%

10%

19%

100%

(資料)デジタル庁「デジタル原則を踏まえた工程表の確定とデジタル規制改革推進のための一括法案について」より筆者作成

 この比率を南相馬市のアナログ規制候補全体から按分すると図表2のとおりとなる。①目視規制や⑦往訪閲覧・縦覧規制は国比率適用数値の方が南相馬市のアナログ規制候補よりも多いため、同マニュアルに掲載されていない更なる検索キーワードでの洗い出し・整理が必要であることが推定される。また②実地監査規制や⑤対面講習規制や⑥書面掲示規制は先にも見たとおり、アナログ規制ではないものが候補に含まれるため除外する必要性が高い。

 このように追加キーワードによる調査や除外の必要性を認識するにあたり、規制所管部門での確認のみでは作業上の限界が想定され、それは規制見直し対象の意図しない抜け漏れ、絞り込みのリスクを生じさせるため、推進部門(行革担当部門、総務担当部門、DX担当部門)による確認・助言体制の構築が重要となる。なお、筆者も南相馬市・宇部市等でCIO補佐官業務の一環で見直し支援に取り掛かる。こうした支援を通じて、アナログ規制見直しとデジタル化を車の両輪として進めることが可能となる。

図表2:南相馬市アナログ規制候補と国アナログ規制比率との比較

(資料)ぎょうせい「政策法務支援システム」検索結果より筆者作成

4. おわりに

 本論では規制の洗い出しを中心に論じたが、点検・見直し方針の策定にも留意点がある。それはマニュアルでも触れられているように「条例等で定められていないような住民手続の運用ルール等についても、デジタル原則の趣旨を踏まえ、積極的に見直しを行っていくこと」である。過去の経緯や暗黙の了解、担当者の手順書レベルで規制を前提としたオペレーションとなっているケースも対象物に含めることが想定される。
 既に各自治体で新型コロナウイルス感染症の流行を契機に自治体DX推進の一環として「押印見直し」をキーに書面規制、対面規制を中心に積極的な見直しが図られたところであるが、その火を絶やさず(もしくは再度着火し)、次なる段階である「アナログ規制見直し」へと移行することが期待される。

竹田圭助(たけだけいすけ)
日本政策総研主任研究員

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