レポート・コラム

【公共コンサルの視点】「デジタル田園都市国家構想総合戦略」を踏まえた自治体DXの方向性

「デジタル田園都市国家構想総合戦略」を踏まえた自治体DXの方向性
-計画策定において留意すべきポイント

竹田圭助
1.はじめに

 各自治体の地方版総合戦略の改訂では、地方版総合戦略が総合計画に統合される傾向にある。2022年12月に国の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」が「デジタル田園都市国家構想総合戦略」へと改訂された。これに伴い「デジタル化を活用した地方創生」が前提となるため、「地方版総合戦略」の改訂では総合計画に加え自治体DXの推進計画との関係性を踏まえることが事実上、要請された。これを受け、各自治体では以上の計画それぞれにおける立ち位置と関連性を再整理する必要がある。そこで本稿では、各行政計画の関係性見直しに必要な視点を5つに分類し、類型ごとの注意点を示す。

2.「デジタル田園都市国家構想総合戦略」の概要と自治体への影響

 「デジタル田園都市国家構想」(以下、「同構想」とする)とは、政府が「新しい資本主義」実現に向けた成長戦略に掲げた、デジタル社会実現に向けた重要な政策の柱のことである。令和4年6月には「デジタル田園都市国家構想基本方針」が閣議決定され、令和4年12月23日には同方針に基づき「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を抜本的に改訂し令和5年度から令和9年度までの5か年の新たな総合戦略として「デジタル田園都市国家構想総合戦略」が閣議決定された。各自治体では取り急ぎ上記を踏まえた地方版総合戦略の見直しが急務となるが、一筋縄ではいかない可能性もある。一口に見直しといっても、各行政計画の関係性や立ち位置の再整理と、計画に記載された政策内容及び指標の再整理といった、(相互に連関してはいるが)異なる階層の対象物が含まれるからである。

3.「デジタル田園都市国家構想総合戦略」を踏まえた地方版総合戦略改訂の視点

 地方版総合戦略の改訂作業は、政策立案と指標設定の前段として、まず計画体系の再整理が急務となるだろう。なぜなら、もともと地方版総合戦略は自治体の最上位計画である総合計画と親和性が高かったところ、特に地域DXの文脈でDX推進計画とも接近しているからである。自治体により総合計画と地方版総合戦略の統合、DX推進計画の策定状況や各計画の計画期間は様々だが、今般、地方版総合戦略を軸として接近した3つの計画を独立して策定・進捗管理するのか、それとも統合を図るのか等、各計画の策定理由となる背景を理解した上で、実務上の制約も勘案した計画体系の最適化が必要と考える。最適化に向けては以下5つの選択肢がある。

図表1:総合計画・地方版総合戦略・DX推進計画の関係性

(資料)筆者作成

 これら5つのうち最も望ましい選択肢は「(1)総合計画・地方版総合戦略・DX推進計画を全て統合」である。理由として、自治体としての取組の一貫性、計画期間や管理の一本化によるPDCAサイクルの各プロセスの効率化等が挙げられる。また、最も重要なメリットは、あくまで「手段としてのデジタル」であることを計画の建付けとして明示できる点である。一方、留意点は地方版総合戦略とDX推進計画の要素を、総合計画の構造上、どの階層にどのように位置づけるかがある。総合計画の構造を各自治体での主流である3層構造(基本構想・基本計画・実施計画)を例にとると、次のような整理があり得る。
 パターン①の場合は、各政策を分野横断的に見た「重点目標・重点政策・重点施策」等の一つとして位置付ける。例えば「人口減少や少子・高齢化社会への対応」としておき、地方版総合戦略及びDX推進計画の非デジタル及びデジタルいずれの内容も包含することが考えられる。パターン②の場合は各政策分野単位と同レベルとして一章設け、各政策分野を下支えするものと位置付ける。例えば行財政改革と自治体DX(特に行政DX)が本質的に類似の理念・営為であるとして、基本計画に記載の各政策・事業を着実に推進するために分野横断的な行動指針となる「行財政改革」(自治体によっては行財政改革大綱・基本方針・行政改革プラン等としているパターンもある)にあたる部分に盛り込み、各分野別基本計画の要素と紐付けることも考えられる。

図表2:地方版総合戦略・DX推進計画の総合計画への統合

(資料)筆者作成

4.まとめ

 上記を踏まえポイントを2点整理する。第1に、「デジタル化は手段」であることを計画体系で位置づけることである。同構想は地方創生があたかもデジタル化が前提のように読み取れる。手段の目的化のリスクを避けるためにも地方版総合戦略とDX推進計画の両者を総合計画に組み込み、記載された政策・施策・事業の達成の手段としてのデジタル化を位置づけることが望ましい。
 第2に、類似・同一の計画を統合することによりスリム化を図り、管理上の効率性と実効性を確保することである。実質的に同一・類似の目標・内容を共有することの多い計画の整合性はもちろんのこと、策定後の進行管理・評価・改善等のPDCAサイクル運用の効率性や、実効性を理由として統合することはあるべき姿であろう。
 本稿では、計画策定の観点からデジタル田園都市国家構想との整合性担保のための留意点に絞ったが、このほか政策立案や指標設定のあり方についても十分な検討が必要となる。その理由は政策立案や指標設定に関して、実務を担う職員の理解や技術が必ずしも高まっていない点にある。政策立案の検討期間を十分に確保できないと、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」のように国が示した事例集を参考に新規の施策等を立案する等、時間の制約の中で安直な手段を選択せざるを得ない。この結果として計画の形骸化を招く恐れがある。デジタル有無の手段にかかわらず、全ては地域課題を解決するために実施する施策・事業であることを認識したい。

竹田圭助(たけだけいすけ)
日本政策総研主任研究員

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