レポート・コラム

【経済トピックスNo.8】対日15%関税のマクロ的影響(宮脇淳)(2025年7月28日)

【経済トピックスNo.8】対日15%関税のマクロ的影響

 7月23日に米国トランプ大統領は、対日関税15%で合意したことをSNSで公表、日本政府も関税交渉が合意し協定が成立したとしました。本トピックスNo.7では以前の25%関税適用表明を前提に25%関税は日本経済実質成長率を1~1.2%程度引下げ、少なくとも国内所得7兆円、雇用者6~7万人に直接的影響を与え、日本経済の潜在成長率は現在0.9%程度と見込まれ、それに匹敵する水準が失われるとしました。
 今回の相互関税15%は、自動車を含め15%とするもので自動車に対する従来の25%関税と比べると税率が低下しましたが、広い範囲に及ぶ相互関税は当初の10%に対して税率が上昇、日本経済全体に与える影響は大きくなります。相互関税15%ですと通年0.8~1%程度の実質成長率下押しで、国民所得4~5兆円程度減です。他の要因に変化がなければ日本経済は2025年度0.2%程度の実質成長率、2026年度同0.5%、2027年度同1.0%程度となります(図)。

(資料)当初予測は日本政策総研2025年度3月時点の数値です。

 上記試算が対米輸出で70%程度を占める自動車産業・機械産業をベースとしていること、中国、東南アジア地域を含めたサプライチェーンの変化等さらに検討すべき課題が多く存在することなど留意点は残ります。さらに関税負担に対する製品価格引下げ分の国内経済、中小企業へのコスト削減の影響、日米間の合意に対する政府コメント等で不明確な点も存在することから、今回の合意が現状に対してどこまで担保となっているか、鉄鋼・アルミ等に見られるように国家間合意とは別の個別品目の行方、防衛装備品の購入や対米投資動向等不確実性も多く、引き続き注意深く見ていく必要があります。

宮脇淳(みやわきあつし)
株式会社日本政策総研代表取締役社長
北海道大学名誉教授

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