レポート・コラム

【財政を見る眼】税収予測の深化と経常経費の見直し(2022年6月6日)

宮脇 淳

税収予測の深化と経常経費の見直し

2022年度以降、地方財政を取り囲む環境はアフターコロナも睨みつつ大きく変化する。その変化は、歳入面ではウクライナ問題や円安・エネルギー価格上昇等に伴う経済金融活動の変動にある。その影響は、各地方自治体の地域体質によって異なる。住宅都市、工業都市、学園都市、そして農林漁業の地域等により震度は異なり、かつ影響が顕在化する時期もタイムラグも異なる。しかし歳入、特に自主財源である税収の動向に対してはより適切な見積予測能力が求められる。多くの自治体では、国の予算の税収見積、地方財政計画の税収等を参考に過去の動向から判断するケースが多いものの、国全体の予測は参考にしつつ自らの自治体の地域性を十分に踏まえる必要がある。加えて、これまでのグローバル政策、金融緩和政策の変化が生じている中で、単純に過去の動向を先延ばしする手法も適切とは言えない。歳入に対して、リスクを踏まえつつ予測する手法を個々の自治体で取り組む必要がある。議会の予算・決算審議でも、歳出面の議論に中心を置きやすい。今後は歳入面、特に税収自体の予測に焦点を置いた議会議論が必要となる。

一方で、従来同様に歳出における経常経費の見直し議論は引き続き重要である。これまで経常経費を抑制できた大きな要因は、低金利政策と人件費削減にあり、両者ともに限界となる中でより踏み込んだ経常経費の見直しが必要となる。地方自治体の経常経費拡大の共通的要因の第1は、周知のとおり扶助費の増加にある。私立保育園施設型給付費、義務教育就学児医療費助成、生活保護費等の増加などである。超少子高齢化時代となり社会福祉関係等で経常的な歳出が増加することは避けられない。しかし、各地方自治体の類似団体比較において数値間に違いがあり、その違いの是非ではなくまずどこまで根拠づけられるか、政策的特性も含め精査する姿勢が求められる。単に自らの自治体を議論するだけでなく、国民健康保険、介護保険事業会計等への繰出金の増加と同時に生じている場合、財政をさらに硬直化させる要因となる。扶助費関係の拡大に時間的ズレはあっても、全ての地方自治体で生じる課題であり類似団体比較を行い類似点・相違点を明確にする必要がある。

第2は、公共施設の老朽化に伴う更新投資や維持管理コストの増加、さらには施設の機能強化などがある。ほとんどの地方自治体で共通する課題であるものの、更新投資のあり方、すなわち統合等の積極的検討、そして基金等による積立を行い計画的に実施するか否か、老朽化により廃止する施設の優先順位、ゴーイングコンサーンの明確化など根拠に基づき議論することが必要となる。

第3は、人件費+物件費の構図の固定化である。定員管理の強化等により人件費を抑えても、民間化等の推進の中で人件費抑制の代替として物件費が増加し、両経費が横ばい以上の推移となり類似団体を上回る状況になるケースがある。この要因のひとつは、民間化の方法ではなく、民間化に移行する事業の必要性がどこまで議論され改廃等見直しが実施されているか、単に人件費削減の視点で行われた場合は物件費の固定化を生じさせ経常的支出を硬直化させる要因となるだけでなく、最終的に民間化による事業継続自体を困難にする要因ともなる。類似の点は、零細補助金が固定的に残存する構図でも見られ、改めて根拠に基づく踏み込んだ議論が必要となる。

宮脇 淳
日本政策総研理事長兼取締役
北海道大学名誉教授

20220606_財政を見る眼「公会計改革の理念と行政評価」(宮脇淳).pdf
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