【公共コンサルと政策の視点】ふるさと納税指定取消に見る自治体ガバナンスのあり方(若生幸也)(2025年9月24日)
ふるさと納税指定取消に見る自治体ガバナンスのあり方
1.はじめに
2025年6月13日、総務省は長野県須坂市と岡山県吉備中央町に対し、ふるさと納税の指定団体からの取消を発表した[1]。
須坂市・吉備中央町は2025年6月17日から2年間指定取消となった。須坂市・吉備中央町ともふるさと納税を通じて多額の寄附金を集めており、今回の取消がもたらす自治体財政・地域経済への影響は甚大である。2024年度ベースの寄付受入金額を踏まえて考えてみると、須坂市では年間約47億円、吉備中央町では年間約11億円もの歳入が2年間消えることになる[2]。このうち返礼品などを含む総経費率が5割だとして、真水で事業費等に支出できるのは須坂市年間約24億円弱、吉備中央町は約6億円弱である。
ふるさと納税自体は財政調整基金にプールしているはいえ、須坂市では補正予算として、2025年度当初一般会計予算312億円に対してマイナス34.5億円の補正予算を令和7年6月定例会で成立させることになった[3]。つまり一般会計予算の1割超の影響があったことは明らかである。吉備中央町の2025年度当初一般会計予算も125.4億円と、こちらも1割程度の影響があると言える。
2.須坂市と吉備中央町の何が問題だったのか
(1)須坂市:産地偽装問題の経緯と自治体の管理体制の不備
須坂市は、ふるさと納税の返礼品の一部に産地偽装があったことが判明し、指定取消処分を受けた。2019年度から2024年度にかけて、特定の事業者が取り扱った果物において、他自治体産の品が「須坂市産」として送られた。市は「十分な管理・確認体制が整っていなかった」ことを問題の要因と認識し謝罪している。
一方、産地偽装を見つけるのは容易ではない。今回特に問題視されたのは、市が産地偽装を把握しながら対応が遅れた点にある。2024年12月に報告を受けた後も、約2か月間寄附募集を継続していた。把握した際に即時募集停止し、事業者に問題があれば契約解除する、寄附者への返金対応、代替品対応などのプロセスを経るのが最も重要であったと言える。
(2)吉備中央町:返礼品調達費用の基準超過と「奨励金」を巡る解釈の相違
吉備中央町は、返礼品のコメの調達費用が地方税法で定められた上限(寄附額の30%)を超過していたため、指定取消となった。具体的な違反内容は、2024年10月~2025年3月にかけて生産者への「代金」(約14,000円)に加え、別途「奨励金」(約11,000円)を支払っていた点にある。町側は奨励金を調達費用とは考えておらずあくまで農家支援の一環という姿勢を崩さなかったものの、総務省は出荷量に応じて支払われるため調達費用の一部と判断した。これにより、返礼率が約57%となり基準の30%を大幅に超過したと認定された。
この場合、米価高騰の折に募集していた寄附メニューの返礼率が3割を超えた時点で一時受付停止し、寄附金の返還もしくは返礼品のコメ数量変更や代替品発送という手段をとれば、指定取消になる可能性は低かった。しかし、そもそも「奨励金が調達費用に含まれない」という認識であればこの対応にはつながらなかっただろう。
本来、同じようなお米であれば、寄附額に対して過大なキロ数のお米が返礼品となることは考えにくく「お得」は何らかのからくりがあるのではないかと考えるのが自然である。3割ルールは返礼品の過度な競争を抑止するために設けられた制度であり、実質的に「お得」度を増す仕組みは本当に大丈夫かと立ち止まる姿勢が重要である。
吉備中央町は3割ルール超過の報道後も奨励金は調達費用に当たらないとの主張を続けてきたが、奨励金が返礼品のコメの調達に不可欠である以上、調達費用に当たるのは明確であった。また、両自治体に行われた総務省市町村税課長の調査時にも町長は対応しておらず、同時に指定取消となった須坂市は市長が対応していることから、自治体トップとしての危機管理姿勢が異なり、ガバナンスの違いが現れた。更に既に第三者委員会を設置し検証し終えた須坂市と第三者委員会の設定もなく指定取消を受けたことから更なる地方税法違反として3割の返礼率を超える返礼品を継続的に寄附者に送ろうとする吉備中央町との差は大きい。
3.過去の取消事例は何が問題だったのか
今回の須坂市・吉備中央町の事例以前にもふるさと納税の指定取消事例が3件ある。この構造を理解することは、今後の教訓として極めて重要である。
図表:過去のふるさと納税指定取消事例と取消を回避できた都城市
出典:各自治体ウェブサイトなどより筆者作成
(1)高知県奈半利町[4]
返礼率が3割ルール超過の一方、事業者に指示を出し調達費に当たる部分を梱包費や送料に転嫁し、総務省には「3割基準を満たしている」という虚偽申告を行った点がポイントである。いわゆる「故意」(知っていてやっている)であった点が、極めて悪質な犯罪行為として他の事例と異なる点である。地場産品以外の返礼品もあり、賄賂発覚など問題が頻発した。
(2)宮崎県都濃町[5]
返礼率が3割ルール超過の一方、ある返礼品事業者の債務不履行に伴う損害賠償金を3割超過分に充てれば返礼率は3割であるとして、「別名目扱いでの補てん」と町では位置づけていた。しかしこれは総務省に3割ルール超過と判断された。
(3)兵庫県洲本市[6]
洲本温泉観光旅館連盟の加盟施設で使用可能な「洲本温泉利用券」は10万円の寄附に対して5万円の利用券を返礼していることから返礼率3割ルール超過の一方、市では5万円の利用券を提供するときに調達費27,500円を、制度PRなど手数料名目で22,500円を連盟に支払う仕組みとした。市が手数料を支払うのは、利用券が使われた後になるため、返礼率は27.5%であくまで手数料は別名目扱いと市は位置づけていた。しかしこれは総務省に3割ルール超過と判断された。
4.須坂市と同様の産地偽装発覚でも取り消されていない都城市の特徴は何か
宮崎県都城市は、2023年11月14日に若鶏もも肉の産地偽装が発覚した。しかし、都城市はふるさと納税の指定取消には至っていない(2024年度の寄附受入額176.9億円と全国4位)。この理由は、問題発覚時の迅速な初動対応にある。
都城市は、産地偽装が発覚した際、11月21日には当該事業者との契約を解除し、12月5日までに不適切表示を行った返礼品に関して支払済委託量相当額の支払いを請求した(事後、支払義務の有無に関して事業者と訴訟し、市が勝訴)。対象商品を受け取った寄附者には寄附金の返還または代替品発送の対応を取った[7]。
須坂市が産地偽装を把握しながら約2か月間寄附募集を継続したのに対し、都城市は発覚後すぐに募集停止と契約解除、そして寄附者への対応を迅速に行ったことで、指定取消を回避できている。この事例は、不正行為そのものだけでなく、問題発覚後の自治体の初動対応と危機管理体制の重要性を明確に示している。
さらに、都城市は不正防止のために「都城市ふるさと納税マネジメントシステム(=FMS)」を構築している[8]。このシステムでは、通常の寄附ルートで現物を取り寄せ、放射性同位体検査で表示どおりの商品かを確かめるなど、厳格なチェックを行っている。市との契約時の審査も厳しくし、信用調査会社の情報も活用して、新規応募企業のうち数社は審査が通らなかった実績もある。
5.取消事案を踏まえ、自治体が返礼品を巡って注意すべきこと
(1)制度趣旨の理解
まずは各種返礼品に係る制度趣旨を理解することが重要である。具体的に書いてあることを超えて「なぜこの制度が導入されたのか」の経緯を知ることが判断に迷う際の基準となる。返礼率3割ルールは返礼品競争が激化したために導入された制度である。また総経費率5割ルールは返礼品含む寄附金受入に係るコストが過度にかからないようにするための制度である。当然ながら危ない橋を渡りそれが知られれば指定取消の懸念は高まることになる。それでもグレーゾーンの場合には都道府県を通じて総務省に照会することが必要である。
(2)トラブル発生時の初動対応の定式化
この制度趣旨の理解を大前提にトラブル発生時の初動対応についてあらかじめ検討する必要がある。基本的に順序の前後はあるが、①即時募集停止、②問題事象があれば契約解除、③寄附金返金もしくは④返礼品量コントロール、⑤代替品対応などが必要である。当然ながら問合せ対応も急増するため、対応要員確保も不可欠であろう。
(3)自治体のガバナンス体制確立
トラブル発生に際して統合的に自治体が対応するためには自治体のガバナンス体制確立が不可欠である。外部委託事業者に対するガバナンスも含めて自治体の責任範囲であることを認識して、取組を推進することが重要である。
制度的には今後導入が予定される「ふるさと住民制度」との関係なども含めて、「住民・ふるさととは何か」が問われふるさと納税のあり方も改めて議論が喚起される可能性もある。ただし、現状の制度の枠内でも自治体のふるさと納税ガバナンスが厳しく問われていると言える。指定取消事例は吉備中央町を除き全て第三者委員会を設置して検証している。吉備中央町ではふるさと納税の指定取消後も返礼品率3割を超えて指定取消前の寄附者に対して返礼対応を行っているが、既に指定取消がなされているためその後のペナルティはない。本件は明確に地方税法違反であり、自治体のガバナンス体制が確立していない証左でもある。ふるさと納税の再指定時には、指定取消後の状況も踏まえて再指定可否を検討する仕組などを検討する必要性があろう。
なお、須坂市と吉備中央町の指定取消を発表した際に、総務省は「ふるさと納税に係る指定制度の適正な運用について」(総務省自治税務局市町村税課長通知・令和7年6月13日)を通知している[9]。以下の引用部分のように、事業者との契約や実地調査、物価変動でも3割ルールは遵守すべきことを明示している。
・食品の産地名の適正な表示の確保のため、食品返礼品提供事業者との契約において、「食品の産地名を適正に表示する旨の規定」及び「必要と認めるときは、調査(実地調査を含む。)を行うことができる旨の規定」を設ける必要があること、また、これらの規定に基づき、産地名の適正な表示が行われていないことが疑われる場合等には速やかに実地調査等を行う必要があること ・支出の名目にかかわらず、当該地方団体が支出した額が当該返礼品等の数量又は内容に影響するものである場合には、返礼品等の調達に要する費用に該当し、返礼割合3割以下基準(地方税法第37条の2第2項第2号及び第314条の7第2項第2号)の算定に反映されるものであること、また、返礼品等を提供する地方団体は、その理由如何にかかわらず当該基準を満たすことが必要であり、物価上昇に伴う調達費用の変動が理由であってもこの例外とはならず、指定の取消しの事由となることの2点については、改めて留意していただくようお願いいたします。 |
6.おわりに
総務省告示では2025年9月末をもってふるさと納税のポータルサイトでのポイント付与を禁止することになっており、総務省とふるさと納税大手ポータルサイトの楽天株式会社との訴訟に発展している。2026年10月からのふるさと納税指定基準として告示改正がなされ、①「広報目的基準」の明確化、②「付加価値基準」における算出方法の明確化等、③返礼品等の調達費用の妥当性確保、④募集費用の透明性の向上、⑤返礼品確認事務の効率化が定められた[10]。これらは総じて制度趣旨を踏まえ、地域産品としての付加価値を重視し、情報公開による過度な募集費用に結び付かないことを企図した告示改正であるが、ふるさと納税を担当する自治体や事業者にとっては更なるルール対応負荷となることも事実である。各自治体が制度趣旨を踏まえルールを遵守していれば過度な負担につながる告示改正には本来結び付かない。しかしながら、岡山県総社市での第三セクターを通じた返礼率3割ルールの潜脱[11]も報道されており、第三セクター等との関係性は今後の焦点となる。
ふるさと納税制度全体は都市と地方の関係においても厳しい目が注がれている。特に都市自治体に多い地方交付税の不交付団体では住民税がそのまま流出し補てんはなされず、減収規模は無視できない水準となっている。一方、地場産品が充実した自治体では一般会計予算を超えるほどの寄附額を集める自治体もあり、財政調整基金に過大な基金を積み増し、寄附金を活用した“充実”した行財政運営がなされる歪みが生まれている。現在のふるさと納税制度を前提とした場合であっても、ふるさと納税を活用した知恵を絞った地域産品の磨き上げやふるさと納税に頼らなくても自立的に「売れる」商品・サービスの展開、寄附金を活用した事業の構築などが不可欠である。更にクラウドファンディング型の意思ある寄附制度への転換や寄附対象等の限定化はいずれ不可避であろう。
7.補足(2025年9月26日の追加指定取消を受けて)
岡山県総社市、佐賀県みやき町、長崎県雲仙市及び熊本県山都町の4団体がふるさと納税の指定取消を受けた[12]。2025年9月30日から2年間は指定取消期間となる。総社市は第三セクターを通じたコメ返礼率3割ルールの超過が理由である。第三セクター等との関係性を指摘したところであるが、第三セクターを経由していたとしても返礼率3割ルールは適用され、3割ルールの潜脱は明確に認められない形となった。
その他、みやき町、雲仙市、山都町の1市2町は総経費率5割ルールの逸脱によるものでふるさと納税の指定取消を受けた。このうち雲仙市では2024年6月のふるさと納税見込調査で、ふるさと納税募集サイト1社の経費を計上し忘れ、総経費率5割内の49.4%と国に誤った数字を報告した。これに対し、総務省は見込み値の虚偽申告や事態の把握を怠ったこと、さらに総務省への相談もなかったと厳しく指摘があったという[13]。
これら2市2町の状況を見ても、第三セクターや民間事業者等を活用していたとしても、返礼率3割ルールや総経費率5割ルールを遵守できる自治体のガバナンス体制の確立が問われている。不可抗力として自治体の責に帰することが困難な場合以外は、このようにガバナンスが確立していない自治体は容易にふるさと納税の指定取消を受ける可能性を踏まえた対応が自治体に求められよう。
[注]
[1] 総務省ウェブサイト「ふるさと納税の対象となる地方団体の指定の取消し」(2025年6月13日)
[2] 総務省ふるさと納税ポータルサイト「各自治体のふるさと納税受入額及び受入件数(平成20年度~令和6年度)」
[3] 須坂市ウェブサイト「令和7年6月市議会定例会で成立した2025年度補正予算の概要(2号)」
[4] 奈半利町の経緯を示す詳細は第三者委員会報告書に記載のとおり
[5] 都濃町の経緯を示す詳細は第三者委員会報告書に記載のとおり
[6] 洲本市の経緯を示す詳細は第三者委員会報告書に記載のとおり
[7] 都城市ウェブサイト「【産地の不適正表示があった返礼品を受け取られた皆さまへ】これまでの経緯と今後の対応をお知らせします ※令和4年10月1日~令和5年4月30日に対象の返礼品を受けとられた方」
[8] 「[知りたい聞きたい伝えたい]#ふるさと納税 都城の産地偽装対策」日本農業新聞、2025年1月20日
[9] 総務省市町村税課長通知「ふるさと納税に係る指定制度の適正な運用について」令和7年6月13日
[10] 総務省自治税務局市町村税課「ふるさと納税の指定基準の改正等について」令和7年6月24日
[11] NHK岡山NEWS WEB「岡山 総社市 ふるさと納税のコメを上限超えで調達の可能性」
[12] 総務省ウェブサイト「ふるさと納税の対象となる地方団体の指定の取消し」(2025年9月26日)
[13] テレビ長崎「最大約10億円の収入が消えた…雲仙市が「ふるさと納税」で経費計上ミス 2年間対象団体から指定取り消し」
若生幸也(わかおたつや)
日本政策総研専務取締役
東京大学先端科学技術研究センター客員上級研究員
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