レポート・コラム

【政策を見る眼】デメリットを最小化する政策議論(2022年4月5日)

デメリットを最小化する政策議論        宮脇淳★

コロナ禍3年目を迎える2022年度予算を考えるにあたって、地方財政の貯蓄たる財政基金のあり方が議論となっている。もちろん財政基金のあり方は、これまでも税収動向や債務累積との関係などから議論の対象となってきた。現在の住民ニーズに対応するため、足元の支出を優先し基金を取り崩すべきか、債務も多い中で将来住民に負担をかけないために取り崩しは行わず、むしろ足元の支出を抑制してさらに積み立てるべきかなど財政運営の基本に関わる議論である。総務省から基金のあり方に関する一定の考えは示されており、交付税との関係などが指摘されるものの、地域により住民ニーズは異なるため財政民主主義の視点から議会も含め、地域自らが考え方を明確にして取り組む必要がある。

基金の運用に関し、現在住民と将来住民のニーズをいかにバランスさせるかは、単に単年度収支、さらには将来負担比率等の数字上の問題ではなく、世代間格差をどう受け止めるか財政運営に関する政治的倫理の問題である。こうした問題は、基金に限らず長期間の投資を要する社会インフラ整備の是非でも同様である。総括して表現すれば、「将来世代の選択肢を奪うことなく、現在世代のニーズを満たすこと」と表現できるが、具体的に両立させる領域はどこか。「あれもこれも」ではなく、「あれかこれか」世代を越えて判断するものさしは何か。それは、世代間を通じて変化しない、あるいは変化しても極めて緩やかにしか変化しない政治的倫理の領域である。政治的立場を超え、時間軸を超えて絶対的に優先すべき倫理。それは、先達の知恵と経験の蓄積が教える「生きることの担保」であり、まずは「生命の安全」である。現在と将来の住民の生命の安全確保に世代間格差を生じさせることは避けなければならない。生命に対する安全確保は、生命の選択肢がひとつしかないため世代を超えた政治的倫理であり、選択肢の多い趣味や嗜好、生活利便のレベルとは異なる政治的倫理である。

この意味から防災・災害対応、医療・福祉が世代を超えて共通した政治的倫理となる。ただし、具体的実現方法と確保すべきレベルについてはさらに議論が発生し、財政配分をめぐり政治的対立の先鋭化が生じる。その際にひとつの指針となるのがマキシミン原則である。合理的選択方法の一種であり、選択肢がもたらす最悪の事態を比較して,その中で最もデメリットの少ない選択肢を選ぶ意思決定である。物語の暴走となりやすいメリットの羅列と比較ではなく、セーフティネットを重視しデメリットが最少となる選択肢からの財政議論も、将来世代の選択肢を奪わない議論として重要な視点となる。

宮脇淳(みやわきあつし)
日本政策総研理事長兼取締役
北海道大学名誉教授

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