【公共コンサルと政策の視点】 国内事例からみる世界情勢の変動時に求められる自治体対応(栗原章)(2026年10月27日)
1.はじめに
関税引上げや輸入規制、資源・エネルギー価格の上昇、国際物流の停滞など、海外で生じる変化は地域経済を通じて自治体財政にも波及する。例えば製造業では受注減や調達難、農林水産業では飼料・肥料・燃料等の価格上昇、観光関連産業では需要減、都市型産業では物流停滞や物価上昇、人手不足が生じ得る。その結果、法人住民税等の歳入減だけでなく、資金繰り、雇用、生活困窮などへの支援需要が増え、歳出面にも影響が及ぶ。重要なことは、世界情勢そのものを予測することではなく、自地域のどの産業・工程が影響を受けやすく、その影響が税収や行政需要にどうつながるかを平時から把握しておくことである。
図表1 産業分野ごとの世界情勢の変動による影響の特徴
|
産業分野 |
主な特徴 |
|
農林水産業 |
飼料、肥料、燃料、資材の価格上昇により、農業者・漁業者の経営が圧迫される。 |
|
製造業 |
特定国・特定部材への依存、通商措置、輸出規制により、受注や調達に影響が出る。 |
|
観光関連産業 |
感染症、災害、風評、交通途絶により、宿泊、飲食、交通、小売等の需要が落ち込む。 |
|
都市型産業 |
物流停滞、物価上昇、人手不足が、医療、介護、保育、小売、飲食等に波及する。 |
出典:筆者作成
2.自治体が担い得る三つの機能
自治体の役割は、大きく三つに整理できる。第一は、地域内の脆弱性を把握すること。主要産業やサプライチェーンを確認し、影響を受けやすい業種・工程・事業者を把握することで、限られた財源をどこに投入するかを判断しやすくなる。第二は、国の制度や外部資源を地域の実情に合わせて適用することである。国の支援制度をそのまま紹介するだけでなく、商工団体、金融機関、企業等と連携し、地域の事業者が使える仕組みに具体化する必要がある。第三は、現場での支援を仕組み化すること。呉市と呉広域商工会の事例[1]のように、相談、申請支援、専門家連携等を組み合わせ、制度を実際の利用につなげる体制を整えることが重要である。
図表2 自治体が担い得る機能
|
機能 |
内容 |
自治体財政上の意義 |
|
① 地域内の脆弱性を把握する |
リスクに弱い産業・工程・事業者を把握する |
支援対象や歳出の優先順位を判断する前提となる |
|
② 国の制度や外部資源を地域に適用する |
国の制度、金融機関、商工団体等の支援を地域の実情に合わせて使える形にする |
国制度を地域課題に対応する事業として具体化できる |
|
③ 現場での支援を仕組み化する |
申請支援、相談対応、伴走支援、関係機関との連携を整える |
制度を実際に事業者が利用できる状態にする |
出典:筆者作成
3.危機時の判断に向けた平時に実施すべき準備
危機時には、どの対象に、どの制度を、どの規模で投入するのかを短時間で判断しなければならない。そのためには、産業部門に加えて税務・収納、福祉、財政などが持つ情報を部門横断で捉え、商工団体や金融機関等との連絡経路も含めて平時から整理しておく必要がある。
(1) 部門横断の情報連携
地域経済の変調は、部署ごとに異なる形で表れる。産業部門では資金繰り相談や制度融資の増加、税務・収納部門では納付遅延、福祉部門では生活困窮相談の増加として先行することがある。可児工業団地の連携BCPでは、企業、行政、インフラ事業者等が平時から連絡網、初動対応フロー、被害状況報告等を整備している[2]。自治体でも、地域産業リスク台帳、関係者連絡先、支援制度一覧、初動チェックリスト等を作成・更新しておけば、危機時の資源投入の優先順位を判断しやすい。また、豊中市等のように税や産業関連のデータを可視化する取組[3]は、地域経済の変化と歳入・歳出への影響を継続的に確認する基盤となる。
(2) 支援から回復までの設計
危機対応は、発生直後の支援だけで完結しない。観光や飲食、小売、交通のように需要減が短期間で雇用や消費に波及する分野では、安全確保、情報発信、風評対策、需要回復を一体で考える必要がある。糸満市の観光危機管理計画は、危機時の安全確保に加え、風評被害対策や観光産業の早期復興までを一連の対応として整理している。[4]山梨県のグリーン・ゾーン認証制度も、安全性の確認と需要喚起を組み合わせた例である[5]。まずは既存の産業振興計画、地域防災計画、業務継続計画、総合計画、財政見通し等に、世界情勢の変動がどの産業を通じて歳入減・歳出増につながるのかという視点を組み込むことが実務的な第一歩となる。
4.おわりに
世界情勢の変動への対応は、平時よりどの産業のどの変調が歳入と歳出にどのような影響を与えるのかを見立て、資源投入に係る戦略を立てておくことが重要である。
自治体の実務上では、自治体の主要産業、関連する税目、相談窓口、既存の支援制度、関係団体、金融機関との連絡経路を棚卸しすることから始めるべきである。新規で大規模な計画を作ることは必須ではなく、既存の産業振興計画、地域防災計画、業務継続計画、総合計画、財政見通しの中に世界情勢の変動がどの産業を通じて歳入減や歳出増をもたらすのかを一項目として組み込むことが第一歩である。
以上
[1] 中国経済産業局「事業継続力強化計画モデル事例集 ~被災経験から見えてきたこと~」(令和4年3月)
[2] 岐阜県可児工業団地 ウェブサイト「岐阜県可児工業団地内連携BCP」
[3] 総務省統計局 ウェブサイト 「市政データ利活用で企業立地促進施策の効果検証を可視化」
[4] 糸満市ウェブサイト 「糸満市観光危機管理計画」を策定しました。(2022年12月1日)
[5] 公益社団法人やまなし観光推進機構ウェブサイト 「やまなしグリーン・ゾーン認証観光施設周遊特設サイトについて」(2020年10月5日)
栗原章(くりはらあきら)
日本政策総研 研究員
|
【内容に関するお問い合わせ】 宛先:株式会社日本政策総研 栗原 章 TEL:03-3830-0611/ FAX:03-3830-0612 e-mail:info[at]j-pri.co.jp [at]を@に置き換えて送信ください。 |