レポート・コラム

【財政を見る眼】地方議会の決算審議とゴーイングコンサーン(2022年4月25日)

地方議会の決算審議とゴーイングコンサーン

宮脇淳

財政議論では、政治的に何をするかの議論が先行しやすく、過去の政策や事務事業の適否に関する優先順位の議論は劣位となりやすい。しかし、経済社会の成熟化やコロナ対応だけでなく、日本経済全体の交易条件の悪化、インフレ圧力と金融政策の変化など地方財政の疲弊度をさらに深める要因が山積しており、新たな政策を議論するときにも、過去の政策や事務事業とセットで見直し議論を行うことが不可欠となっている。

決算審議は、財政民主主義に基づき議会の「議決」によって成立した予算が内容どおりに執行されているかをチェックする重要な役割がある。すなわち財政民主主義の担保機能のひとつであり、決算書を通じて予算執行に不正や誤りがないかを確認することが重要な役割である。加えて、政策や事務事業の継続性の適否を議論することが重要となる。国や地方自治体の予算は「議決」であるのに対して決算は「認定」とされ、議決どおりか確認し認めることが役割とされている。また、仮に認定されなくてもそれは政治的課題にとどまり、予算に基づく執行の効果は直接的に影響を受けることはない。国・地方自治体を問わず政治的視点からは、資金配分を決める予算編成過程が政治パワーを発揮する場として重視され、実際に予算執行された後の決算審議は、不正や誤りがない限り政治的関心が低く住民やマスコミも重視しない傾向がこれまで強かった。

しかし、財政民主主義において国や地方自治体の決算審議は、不正や誤りのチェック機能だけで十分とは言えなくなっている。政策サイクル、すなわちPDCAサイクル、具体的には「計画・実施・評価・反映」の「評価」だけでなく「反映」に向けた重要な繋ぎ手としての役割を決算審議が担う。それなしでは、予算という形式的数字は財政民主主義の担保を受けても、執行による実質的内容の効果は担保されない。反映とは、実施した政策・事務事業に関する実施状況や成果に基づき当該政策・事務事業を今後も継続して実施するか否かの議論であり、予算に繋げる機能である。この繋げる機能を執行部のみに委ねることは、議会の財政民主主義を充実させる役割として十分ではない。いわゆる「ゴーイングコンサーン(Going Concern)」の機能である。政策あるいは事務事業について、決算を通じて財政民主主義の視点から継続するか否か審議するプロセスである。

地方自治体の執行部では、政策評価や行政評価などを通じて政策・事務事業の費用対効果などを検証する仕組みが導入され、その結果は議会に報告される。しかし、議会自身では実際に必要としたコストと成果・執行状態の適否等を財政民主主義に基づき直接審議することはない。すなわち、議会の視点、財政民主主義の視点からPDCAサイクルを充実させる決算機能に組み込む必要がある。そのトリガーとなるのが決算審議でのゴーイングコンサーン機能の充実である。具体的には、予算審議時に重要な政策や事務事業を継続させるか否かの基準・要件をあらかじめ定め、その基準・要件を満たしているかを決算で判断する機能である。なお、ゴーイングコンサーンとは、民間企業や地方自治体の継続性・持続性を前提とする財務運営のことを指す。予算審議時だけでなく1年を通じて予算を執行した結果の持続性を審議し政策の継続性の可否を見極めるものである。

宮脇淳(みやわきあつし)
日本政策総研理事長兼取締役
北海道大学名誉教授

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