レポート・コラム

【民間化を見る眼】地方自治体の内部統制とリスク(2022年6月13日)

宮脇 淳

地方自治体の内部統制とリスク

地方自治体に求められる内部統制は、業務の有効性・効率性の確保、財務の信頼性の向上、事業活動に関わる法令遵守、資産の保全を実質的に達成することであり、組織内のすべての者によって遂行されるプロセス形成を意味する。内部統制を機能させる要素としては、 統制環境の把握、リスク認識と対応、統制活動、モニタリング機能がある。このうち、リスク認識への対応は、従来の地方自治体等行政機関では十分に実施してこなかった点であり、認識すべきリスクの類型には、①「事業対象リスク」、②「合意形成と展開のプロセスリスク」、③ 「コミュニケーションリスク」、④「ステークホルダーリスク」がある。

①「事業対象リスク」に関して重要となるのは、事業に関する契約や協定、その前提となる質疑応答等でリスクはないという前提で議論しやすいことである。事業対象に関する認識・ 理解のズレによって生じるリスクは、常に契約締結後も存在し継続的にチェックする意識と体制をとることが重要である。契約書等の文章には語句の多義性や曖昧性だけでなく文章としての多義性・曖昧性が存在し、その解釈も経済社会の変化により流動化する。このため、事業形成や契約締結時だけでなく、事業開始後においても外部環境変化とは関係なく事後的に戻ってリスクが生じやすい点に留意すべきである。

②「合意形成プロセスリスク」は、そもそも契約締結や質疑応答において抱えるリスクであり、同じあるいは類似関連の課題を何度も堂々巡り的に議論し、相互矛盾を生じさせるリスク、難しい課題を棚上げし、当事者双方の都合による解釈を可能にする便宜的内容の形成を生み出すリスク、協議に関する明確化を図るために作成した議事要旨等に関して簡略化ルールを明確にしないで作成されることで生じるリスク等がある。さらに、契約期間が数十年と長期化しやすい事業では、契約終了時や更新時に当初契約を担った担当者や組織が変化し、合意形成プロセスとは関係なく契約や質問回答書の文言も形式的・表面的に理解し判断する傾向を強めざるを得ない。

③「コミュニケーションリスク」は、日常的に留意しなければならないリスクであり、お互いの考え方や体質、継続的な状況把握が十分に共有できないことによって生じる。組織内の縦割りや横断的結びつきの不足等によるリスク、相互に責任を転嫁し合うリスク、誤情報あるいは同様の情報についての理解の齟齬等による情報リスクなどである。こうしたリスクは、当然に対象リスクや合意形成リスクと重なり合い、事業のジレンマを深刻化させる。

④「ステークホルダーリスク」は大衆情報化社会の深化により事業の利害関係集団が多様化して拡大することで、今まで以上に深刻化する。具体的には、現場認識と乖離したデータ・ 情報への過剰依存によるリスク、サイレントマジョリティによるリスク、専門家のリスクと素人のリスク等である。

リスクが顕在化した時、敏速な対策を選択できる体制を通じてリスクを適切にコントロールするプロセスを確立すること、リスクには内部で発生するリスクと外部の要因により発生するリスクがあり、リスクの内容と発生原因を洗い出し、顕在化する可能性が高いリスク及びそれが組織や活動に与える影響の度合いから整理し対応することが前提となる。

宮脇 淳
日本政策総研理事長兼取締役
北海道大学名誉教授

20220613_民間化を見る眼「地方自治体の内部統制とリスク」(宮脇淳).pdf
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