レポート・コラム

【政策を見る眼】地方自治・国と地方の関係(2022年7月8日)

宮脇 淳

地方自治・国と地方の関係

地方自治は、「アングロ・サクソン系(英米法系)」と「ヨーロッパ系(大陸法系)」に大きく分けられる。前者は、国と地方の権限・機能について分離型を前提とし自治を追求する。そこでは、国と地方の役割を明確に切り分ける中で、地方の役割を徹底して地方自治体に任せる分権構造を目指すことになる。後者は、国と地方の権限機能について融合型を前提とし自治を求める。そこでは、ひとつの行政サービス、事務事業に対しても国や地方自治体が多層的多面的に関与することを前提にその中で可能な範囲で地方の自治を充実させる。

日本の国と地方の関係は、ヨーロッパ系の融合型に位置している。日本の地方自治体は総合行政を担うことを基本としており、この総合行政の実態を「融合・分離」と「統合・分立」のふたつの視点から整理すると「融合・分立」型となる。第1の融合・分離の関係は、多層性を物差しとする分類である。融合とは国と地方自治体が同一の事務事業に相互に多層的に関わる形態である。これに対して分離は、国と地方のどちらかに一元的に権限、財源等が配分される形態である。第2の統合・分立は、縦割りを物差しとする分類である。統合とは地方自治体の事務事業の展開において国の府省所管の縦割りによって実質的・形式的にも区切られることなく事務事業を執行できることを意味する。これに対して分立とは地方自治体の事務事業の展開において府省所管の縦割りで実質的に区切られ執行されている状況を意味する。

以上の物差しを踏まえると日本の国と地方の関係の実態は「融合・分立型」であり、地方自治体は、縦・横の投網型で国からの関与や規律を受ける結果となっている。日本の近代化において中央集権型支配の形成は、標準化と階層化の二つを要素に展開してきた。標準化とは、様々な利害関係間の調整を効率的に行い全体として一貫した目的に到達するための規格づくりを意味し、国の考えを地方に浸透させる上意下達の構造を創り出してきた。一方、階層化は、機能とそれに伴う責任を特定の層ごとに分割することを意味し、標準化と共に国と地方の関係では、一貫した目的を達成するため地方をどのような層に分け、機能と責任を割り振るかを国が決定する。

こうした行政サービス自体の過度の融合性を改善し分権型へと導くことが地方分権の視点である。もちろん、融合性を完全に排除し分離型へ移行することを選択肢とする二極議論、白黒議論を展開するのが最適とは言えない。日本の融合型が過度に進んだことによる反作用を認識し、その是正のため国と地方の権限・役割の再配分とその明確化を進め分離型の要素を拡大させた融合型へとまず進化させることが重要となる。

宮脇 淳

日本政策総研理事長兼取締役
北海道大学名誉教授

20220708_政策を見る眼「地方自治・国と地方の関係」(宮脇淳).pdf
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