レポート・コラム

【民間化を見る眼】NPGと情報共有(2022年7月15日)

宮脇 淳

NPGと情報共有

住民の政策意思決定に関与する流れは、公共サービスの提供の側面だけでなく、政策の意思決定を巡って直接民主主義の手続きを組み込む側面が加わり、新公共サービス「NPS(New Public Service)」として提示されている。住民、地縁団体たる自治会など多様な主体が異なる価値観の下で参加し、民主的な決定の流れに参画することを基本とする。さらに、民間化や政策の実践に関して、市場原理ではなく直接的民主主義の視点から地域への奉仕者としての住民の視点を重視し、地域のガバナンス自体を形成しようとするのが「NPG(New Public Governance)」である。NPSは、行政のスリム化・効率化を最優先とするのではなく、民主的な政策決定を重視し公共政策の在り方を議論するものである。さらにNPSを一歩進め国や地方自治体が住民等とネットワークを形成し公共サービスの提供だけでなく、財政配分等も含めた広範な意思決定とそれに基づく執行を行うことを重視するガバナンス議論がNPGとなる。

NPGは民主的政策決定を重視し、住民参加等官民協働のネットワークの機能によって意思決定や執行が行われるパートナーシップの仕組みといえる。こうしたパートナーシップの流れに対して重要となるのは、情報の不完全性の克服である。情報の不完全性とは政策議論に関連した情報について、地方自治体の執行部と住民間で質量両面において情報の偏りだけでなく、情報内容に曖昧性や多義性があることを意味する。情報の不完全性の放置は、地域の民主主義の空洞化を生じさせると同時に地域政策に対するモラルハザード(道徳的劣化)を生じさせる。加えて、展開する地域政策に対して将来リスクを堆積させる。

さらに、地方自治の見えない重たい「覆い」の代表格は、国との情報格差である。中央集権体質の深層部にある構図は、分野を問わず情報を国が寡占的に囲い込み、地方自治体への情報配分をコントロールすることで自らの優位性を発揮してきたことにある。情報を寡占的に保有し、それをどこに配分するかが国の権力の源泉となっていた。たとえば、どんなに財源や権限を移譲しても、情報を国が寡占的に保有していたならば、表面的に制度面での地方分権が進んだように見えても、実質的な意思決定である積極的自由に結びつけることはできない。地域の民主主義を充実させるためには積極的自由が重要である。そして、政策開発力の充実で求められる重要な地方分権の取組は、情報分権の拡充である。

そして、次に課題となるのは官民関係が生む公共領域と民間領域の情報格差・重たい覆いである。公共サービスを民間に委託することで、従来は公共領域に蓄積してきた情報データ・ノウハウが民間領域に蓄積される。こうした蓄積を市場原理で特定の民間組織だけで囲い込むことなく、公共領域と共有する仕組みがNPGの充実に不可欠となっている。

宮脇 淳

日本政策総研理事長兼取締役
北海道大学名誉教授

20220715_民間化を見る眼「NPGと情報共有」(宮脇淳).pdf
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