レポート・コラム

【財政を見る眼】圏域化と財政(2022年7月29日)

宮脇 淳

圏域化と財政

地方自治体の機能の圏域化議論が、人口減少や財政危機、そしてICT・DXの取組の中で表面化している。圏域化とは、単独の行政界(境界)を越えた複数の基礎自治体を包括する区域を形成し、その単位で公共サービスの運営等の展開を行うことを意図する制度である。情報通信革命等が進展し、ビジネスだけではなく公的部門も含めた経済社会の活動全体が相互連関性の度合いを深めている。そうした中で、地域政策や公共サービスの内容とその効果を考える際に、市区町村の既存の行政区画だけで検討することの有効性や効率性が低下していることを踏まえた議論である。

圏域化を考えるに際して重要な点は、第1に自治体間競争への理解である。一般的に競争とは、「複数以上の集団間で同類の目標を設定し、目標達成に近づくほど優位性を持つ一方が他者を排除し、他者の目標達成を遠ざける作用」である。自治体間競争に当てはめれば、同類の地域活性化や子育て等の政策を複数の自治体で単独で展開し、経済集積度や財政力の高い一方の自治体へ人口や経済社会活動が集中することを背景に、他方の自治体では目標達成が困難となる状況を意味する。こうした勝ち負けに結び付く競争の展開は、排他的関係や不信感を生み出す要因となり、協働や連携とは逆の対立構図を生み出す。そして、一時的に勝利を得た自治体も持続性が確保できなくなる逆機能(持続性を確保しようとした行動が、逆に結果として自らの持続性を困難にする等)を最終的に生じさせる危険性がある。

第2は、地域によって圏域化の構図が異なる点である。圏域を制度化する際に、全国の視点から画一的に設定することは有効性が高いとは言えない。自治体間の連携は、ミルフィーユ的構図が必要でありボトムアップ型で多様な姿の圏域形成を担保することが重要である。たとえば、北海道の場合、人口20万人以上の自治体は札幌市、旭川市、函館市だけであり2040年段階ではさらに規模が縮小する厳しい構図にある。また、本州でも都道府県を越えた基礎自治体間の圏域化も含めて検討する必要がある。その実現のためには、現在のフルセット型を前提とする交付税制度等地方財政も抜本的に見直すことが求められる。仮に、圏域の中核的な位置づけにある自治体に社会経済活動や財政的メリットが集中する制度となったとすれば、自治体間の連携を基本とした安定的な圏域化は実現しない。

第3は、議会機能のあり方である。これまでも、一部事務組合や広域連携等の取組を展開してきた。しかし、広域的視点に対して必ずしも柔軟な議会の意思決定を行うことができず、連携が機能不全に陥ることも少なくない。自治体の自律的な意思決定と圏域としての意思決定の関係をいかに制度的に構築するか課題となる。このため、地域の民主主義による自治の視点から圏域化が図られるかにある。その際に、議会の果たす役割は重要な論点となる。

宮脇 淳

日本政策総研理事長兼取締役
北海道大学名誉教授

20220729_財政を見る眼「圏域化と財政」(宮脇淳).pdf
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