レポート・コラム

【民間化を見る眼】協定の性格と情報の非対称性(2022年9月6日)

宮脇 淳

協定の性格と情報の非対称性

指定管理者制度を例に官民連携の約束である「協定」に焦点を置き、そこに潜む情報の不完全性について、非対称性や不確実性がもたらす課題を検証する。

指定管理者による管理権限の具体的内容と範囲は、地方自治体と指定管理者となった民間企業等組織の間で形成する協定で具体化される。この協定は、行政処分、ないし行政処分の延長線上にある付款なのか、それとも私法上の契約として委任の性格をもつのか、地方自治体、指定管理者を問わず明確に意識する必要がある。なぜならば、協定の位置づけと形成プロセスのあり方は、指定管理者制度に関するジレンマの根幹に位置する問題であり、個別のジレンマに対してその都度・都合に合わせて協定に対する基本的な考え方を変えることはコンプライアンスの面でも不適切となる。そうした対応は、官民連携の根幹に位置する地方自治体と指定管理者間の信頼関係にも影響を与える。

条例、そして地方議会の議決に基づく指定行為によって、公法上の権利義務が指定管理者側に発生する。この発生した公法上の権利義務に関して確認する内容となるのが協定である。しかし、協定の内容対象は権力的行為となる行政処分と位置付けられている使用許可に関するものだけではなく、それ以外の具体的な管理行為や民間企業等の権利・義務関係、リスク分担等私的契約に関する事項も多く含まれる。また、使用許可権限を含まない管理行為を委ねることも可能となっている。そして、こうした協定の多様な位置づけは、協定を形成するプロセスに影響を与え、そのプロセスを通じた情報共有の質を左右することになる。

協定内容を構成する情報は、行政処分たる使用許可権限に関する情報、使用許可権限以外の管理行為に関する情報、さらに事実行為に関する情報に分けられる。住民に対する使用許可権限を含む情報は、形式的には行政処分の付款的性格に位置づけられる。しかし、民間企業等に授権される使用許可権限は定型的かつ裁量権が限られた形式的権力行為であり、協定の中核的位置づけにあると考える必然性はない。加えて、使用許可権限以外の部分は私法上の代理権の授権に関する情報であり、後者については公法上の権利義務関係の設定とは異なる性格を有する。この私法上の代理権については、予め条例で定めた公の施設の管理業務内容を具体化したものであり、地方自治体と指定管理者間の権利義務関係は相互の協議に基づき定めることになる。そして、行政処分の付款的性格の部分も協定によって授権された部分ではなく、条例により授権された部分であり、協定自体の行政処分性は極めて弱く限定的であることから、協定全体を本質的に私法上の契約と解することが妥当と考える。そして、この契約たる付款の大部分は管理行為か事実行為に関する情報であること、さらに契約と位置付けることで行政による一方的行為ではなく、当事者間の情報共有による協議に基づく合意が基本となる。この協議と合意のプロセスにおいて情報の不完全性の克服が進められ、不完全性がもたらすリスクを軽減する役割を果たすことになる。

宮脇 淳

日本政策総研理事長兼取締役
北海道大学名誉教授

20220906_民間化を見る眼「協定の性格と情報の非対称性」(宮脇淳).pdf
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