レポート・コラム

【民間化を見る眼】予防原則とリスクマネジメント(2022年8月30日)

宮脇 淳

予防原則とリスクマネジメント

自然災害、コロナ感染等経済社会をめぐるリスクが多様化し常態化している。リスクとは、一般的に「特定の行動の有無(行為を行う、あるいは行為をしない)に伴って、危険や損失等を生じさせる可能性」を意味する。経済的視点では「プラス・マイナス両者を含む変動」の意味として捉える。なお、全ての変動がリスクとなって認識されるのではなく、一定の視点から「許容できない変動」をリスクとして認識することになる。

以上の点から官民連携においても連携の目標達成に影響を与える要因をリスクとして識別・ 分析・評価し、認識したリスクへの適切な対応を行う一連のプロセスの形成が重要となる。いわゆる「予防原則」であり、とくに「ダウンサイドリスク」への留意が重視される。①取巻くリスクについて適時・的確に把握すると同時に、リスクが顕在化した時、リスクへの早期の対策を選択できる体制を実現すること、②リスクを適切にコントロールするプロセスを確立すること、③リスクには、「内部要因」と「外部要因」がありいずれのリスクに対しても内容と発生原因を洗い出し、見つけ出したリスクを「顕在化する可能性」と「影響の度合い」の観点から評価すること、などの対応が必要となる。そこでは、①事業の継続条件を明確にするゴーイングコンサーンの検証、②実効性確保のための手段の見直し、③以上のためのリスク認識の仕組み構築が必要である。

実効性を確保のための自治体経営のリスク対応は、逸脱型、未来型、探索型、設定型に分けられる。①逸脱型は、目的の達成を維持しつつ、その接近プロセスが何らかの原因によって維持できなくなった場合、原因を明確にして新たな接近プロセスとその下での手段を選択する。②未来型は、目的の達成を維持しつつ、その接近スピードの維持が何らかの原因で困難となった場合、原因を明確にしてプロセスを維持しつつ、目標値への接近スピードとそれに基づく段階・手段の新たな設定を行う。③探索型は、目的の達成を維持しつつ、その水準の見直しを行い、目標変更を優先して行い、そのギャップを埋める接近プロセスや手段の最適化を図る。④設定型は、目的自体の再検証を行い新たな設定の中で目標などのプロセスと水準を設定する。以上の他、最終的に実効性そのものの確保を断念する「終結型」の選択も重要となる。

しかし、予防原則に基づくリスクマネジメントによってリスクを完全に予防することはできない。ひとつのリスクに対する予防措置は新たなリスクを生じさせる。例えば、新たなリスクがダウンサイジングリスクの場合、予防したリスクのダメージより新たなリスクが小さい場合、リスクマネジメントは適切な機能を果たす。リスクマネジメントの目的は、政策・事業そして財政でも住民に与えるダメージを少なくすることであり、ダメージをなくすことではない。

宮脇 淳

日本政策総研理事長兼取締役
北海道大学名誉教授

20220830_民間化を見る眼「予防原則とリスクマネジメント」(宮脇淳).pdf
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