レポート・コラム

【若生幸也の眼】地方自治体における副業・兼業人材活用の在り方(2022年10月26日)

地方自治体における副業・兼業人材活用の在り方

若生幸也
はじめに

近年、地方自治体における外部人材活用が注目されている。例えば、2025年度までと一定の期限が区切られた自治体DXに向けた体制整備の「ハブ」として外部人材活用が位置づけられ、様々な外部人材活用が進められている。また近年の例では、大阪府四條畷市(既に退任)・富山県氷見市・広島県安芸高田市(議会の選任同意が得られず未採用)・静岡県掛川市の副市長公募などトップマネジメントを担う外部人材や2017年に広島県福山市で始まった「戦略推進マネージャー」をはじめとして観光や産業振興、子育て支援など特定分野の専門性を副業・兼業形態で担う手法も徐々に生まれている。これまで審議会委員や各種アドバイザーは大学など個人裁量の大きな組織に所属する有識者の副業・兼業で担われていた。一般企業社員が副業・兼業を通じて地方自治体に関与することは限定的であったが、政府の働き方改革の後押しもあり徐々に一般企業でも副業・兼業が認められるようになり担い手が拡大していることがこれまでの動きとの違いである。

拙稿「地方自治体における外部人材活用の在り方」『月刊地方財務』2022年1月号、ぎょうせいでは副市長公募を中心に広く外部人材活用における重要な視点を3点整理した。①目的を明確化し不足する能力を認識すること、②採用要件を明確化し、採用のためには資源を投入すること、③外部人材と対になる事務局の体制構築・内部人材を確保することの3点である。副業・兼業人材活用にもこれらの視点は欠かせないが、副業・兼業ならではの認識すべき視点が他にもある。筆者も様々な地方自治体で副業・兼業のアドバイザーを拝命しているため、これらの経験も踏まえ副業・兼業人材を活用するための重要な視点に絞って考察したい。

なお、本稿は『月刊地方財務』2022年6月号、ぎょうせいに掲載された論考を転載している(転載許諾あり)。

1.試行的にでも活用可能性のある分野に副業・兼業人材を導入すること

広く外部人材活用における重要な視点として挙げた「①目的を明確化し不足する能力を認識すること」を実施した上で、試行的にでも活用可能性のある分野に副業・兼業人材を導入することが重要である。うまくいけば継続すればよいし、うまくいかなければ改善若しくはやめればよい。この気軽さが副業・兼業人材活用にあることも事実だろう。

以下図表に想定される副業・兼業人材活用例を挙げた。デジタル活用や公共施設管理は財政的にも大玉であり、本来は規模によって副業・兼業レベル、正規採用レベル、外部委託などを組み合わせることで目利き力を担保したい。パブリックリレーションやファシリテーター、ネゴシエーターは全庁横断型で本来的には必要な能力であり、まちづくり・都市計画など技術職は技術職採用を止めている地方自治体では知恵袋として必要であろう。なお、副業・兼業人材が入っている場合には、先行する事例でも見られるように、所属部署からの業務の受託者にはなれない調達制限を設けることが公平な調達には不可欠である。

図表:想定される副業・兼業人材活用例

分野・機能例

概要

デジタル活用

規模によって副業・兼業レベル、正規採用レベル、外部委託などを組み合わせて活用を進めることが必要。これら2つは財政的にも大玉であり最も重要なのは目利き力で地方自治体側の味方になる知恵袋を確保したい。

公共施設管理

パブリックリレーション

住民・域内事業者向け、観光客・来街者・域外向けを問わず各種事業において行動変容を促す「伝わる」情報発信を行うことが必要。これまであまり入っていないが本来は全庁的に能力を向上させる必要がある。

ファシリテーター

住民とのファシリテーション以上に効果を発揮するのが庁内会議のタブーなき議論を誘発する存在としてのファシリテーター。職員が当たり前と思っていることを問い掛け議論する。

ネゴシエーター

住民・事業者とのより良い交渉を行うための交渉代理人。前面に立たなくても対応方針なり交渉戦略を事前に立てておくだけで双方にとってより良い交渉に近づく。

まちづくり・都市計画など技術職

一般市以下の水準だと採用困難などの事情で土木・都市計画などの技術職人材の採用を止めている場合、事務職が過去からの引継書や経験に基づく事業運営を行っており事業運営の知恵袋がいればなおよい。

出典:筆者作成

2.「人工」ではなく「知恵」を求めることを認識すること

人工(にんく)とは作業する人の労働力を指す。「1人日で○円」は「1人1日分の作業の対価が○円」を意味する。しかし副業・兼業人材には「作業(人工)」ではなく「知恵」を求めることが望ましい。作業を依頼すると、あっという間に副業・兼業人材の確保時間は過ぎ去ってしまう。このため、自治体職員が自ら作業し、問題・課題提起や助言受入などの知恵を求める姿勢が必要である。仮に人工計算をするとすれば、「職員だけで検討していたら10人日かかる内容が副業・兼業人材の1日の助言により5人日の検討で済んだ」ら、副業・兼業人材の「成果」は5人日である。逆に言えば、作業負荷が下がる助言ではなく検討を深めるという「成果」のために職員工数の増大も十分にあり得る。この点も踏まえなければならない。また「副業・兼業人材の1日の助言により情報システム投資額が抑えられ、100万円の費用削減が可能」なら、副業・兼業人材の「成果」は100万円である。それぞれ報酬として支払うのは「1日の助言を行ったから1日分の報酬を支払う」となりがちであるが、「成果」を直接的に踏まえることは困難だとしても「成果」を認め、少しでも報酬反映を意識することが望ましい。

やや次元の低い話であるが、ある地方自治体の総合計画策定を支援しているときに総合計画審議会の会長であっても審議会1回あたりの報酬が5,000円を下回ることがあった。たとえ「報酬の多寡が重要ではない」と言っても事前打合せを含めあまりに低い報酬基準は「人工」を踏まえて早急に見直さないと、質の高い有識者を確保することは極めて困難である(このときはアドバイザー費用を別途支払い有識者確保)。2017年に広島県福山市で始まった「戦略推進マネージャー」は1日の報酬単価が25,000円となっている。月勤務日数の20日分であれば報酬は50万円となり十分ではないかと考えるかもしれないが、この手の仕事を企業として受託する場合の費用で見れば日単価10万円という場合も多く見られる。このような相場観を持ち合わせる必要がある。副業・兼業であれば各種人材会社の資料で指摘されるように、報酬は少なくても「やりがい」で来てくれることは事実であろうが、それに甘える姿勢も本来望ましい姿ではない。情報は「タダ」ではない。

仮に「成果」を認めつつもどうしても見合った報酬を支払うことができなければ、以降で言及する「3.『知恵』の対価は少額でもそれに勝る『価値』を返す努力をすること」が重要である。

3.知恵の対価は「少額」でもそれに勝る「価値」を返す努力をすること

予算の都合上どうしても対価は少額にならざるを得ない場合もある。当然適切な対価に引き上げる努力は続けるものの、一方で副業・兼業人材にとっての報酬がカネに限られるわけではない。

副業・兼業で地方自治体に関与する動機として、①これまで地方自治体に関与したことがない人材の場合には、地方自治体の現場の実態を肌感で掴みたい、地方自治体という場で自分の能力が役立つのか否かを試したいなどの動機があるだろう。前者の場合には徹底的に現場で発生している現状と問題をつまびらかに示すべきであろうし、後者の場合には具体的に役立っているならその役立っている助言を伝え、役に立っていないならこういう部分をもっと助言としてほしいと率直に伝えることが重要である。②これまで地方自治体に関与したことがある人材の場合には、これまで取り組んだ内容と掛け算ができる事象を探したい、より先端的な課題を捉えて汎用的な課題のサービスを開発したいなどの動機があるだろう。前者の場合には掛け算が生かせそうな分野で相談するべきで、後者の場合にはこれまで全国多くの地方自治体で手がけたことがない取組であればなおよしである。

いずれにせよ重要なことは副業・兼業人材の「動機」に忠実になることである。この動機をうまく働かせればカネを超えた動きが創出できる。単純なレベルで言えば、「募集要項に決められた内容だからやってください」と上下関係で依頼するか、「あなただからこそこの課題を相談しているので一緒に取り組みましょう」と依頼するかは副業・兼業人材のやる気に大きな違いが生まれる(これは委託事業でも同様のことが言える)。

おわりに

本稿では副業・兼業人材活用において特に重要な視点を考察した。特にやりがいを求めてカネの報酬にこだわらず集まる副業・兼業人材の動機を掴むことが不可欠である。この意味で地方自治体にできることは「自治体というフィールドを貸す」ことであるし、フィールドを貸すからには包み隠さず全てを共有し新たな取組に挑戦することである。地方自治体と副業・兼業人材の双方にとって幸福な関係づくりとなることを願ってやまない。

参考文献

・ビズリーチ「民間人材の兼業・副業事例 教員養成部会での発表資料」
・若生幸也「地方自治体における外部人材活用の在り方」『地方財務』2022年1月、ぎょうせい。
「副市長公募は広がるか 若手退職で派遣できない霞が関」(日本経済新聞、2020年4月5日、筆者インタビューあり)
・「市町村の外部人材活用 副市長公募、副業・兼業 国の制度の効果は」(日経グローカル、2021年11月5日、筆者コメントあり)

若生幸也(わかおたつや)
日本政策総研副理事長兼研究主幹
東京大学先端科学技術研究センター客員研究員

【最終稿PDF】若生幸也「地方自治体における副業・兼業人材活用の在り方」『月刊地方財務』2022年6月号、ぎょうせい。

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