レポート・コラム

【民間化を見る眼】PPP事業の内部統制(2022年4月13日)

PPP事業の内部統制

宮脇淳若生幸也

PPP事業に対する内部統制は、地方自治体の基礎となる合規性の視点を中心とする「コンプライアンス」と様々な外部環境・内部環境等の変動に対応するためのリスクの発生頻度・影響度を評価し対応策を定める「リスクマネジメント」に分けることができる。リスクマネジメントでは、「不必要な経費をかけていないか」というコスト要因、「より高い成果の出る方法はないか」という効率性要因、「目的達成のために一層適切な方法はないか」という有効性要因を中心とした観点が加わる。

PPPに関しての合規性の担保は大きな課題がある。地方自治体による過大・過小な統制が混然一体となって現実には展開されており、消費税増税における転嫁条項の取り扱い、回数上限なしの少額補修条項など地方自治体から民間組織への過大と評価できる統制例もある。一方で、地方自治体からの過小な統制例では、業務実施報告の義務づけに対して、報告が実施されなくても放置し続ける運用なども見られる。このような運用では公共性に関する必要なモニタリング情報が得られず、公共サービスに対する是正が困難となる。このような事態が発生する根底には、請負型の委託も含めて官民を上下関係のガバナンスとして捉えた従来からの公共調達の基本的スタンスがある。

例えば指定管理者制度では、制度導入前の管理委託制度の委託先が公共団体(地方公共団体・公共組合・営造物法人)・公共的団体(農業協同組合・商工会議所等)・出資法人に限定されていたため、人的・資本的にも関係性が深く身内の感覚で業務が行われていた。形式的な公共性担保に依存し、委託者と受託者という関係ではなく、暗黙の了解の中でそれぞれが行政組織の視点からの自由裁量を確保するため、実質的なリスク分担は限定的だった。

これに対して、指定管理者制度の導入趣旨は本質的に管理委託制度の関係性を見直し、規律密度の低い中で民間事業者の自由度を担保しながら民間事業者の創意工夫を施設管理運営の価値向上につなげることにある。このような認識が薄く管理委託制度時代の関係性を踏襲したまま、指定管理者制度を運用する側面も見られる。特に、指定管理者制度の場合、地方自治法で制度設定されているものの自治事務の位置づけにあり、各地方自治体のコンプライアンスやリスクマネジメントの意識の質に左右される点が大きい。これは指定管理にとどまらず民間化の取組に共通した課題である。

様々な外部環境・内部環境の変動に対応するため、リスクの発生頻度と影響度を評価し対応策を定める取組を実現している例は限定的である。リスクマネジメントの視点はあっても「リスク分担表」を地方自治体と民間事業者との「星取表形式」で整理することが一般的であり、そこで生じる課題への対応策は「協議」に委ねられていることが中心となっている。「協議」条項については、「何が起こったら必ず協議に入るか」という「協議発動条件」が明確化していないため、どのような場合に必ず協議に入るか明確でなく、双方の合意が得られない限り協議にも入れない状況にある。当然、様々な外部環境・内部環境の変化により経済性・効率性・有効性確保に向けた施設管理方法論も技術的なレベルでは弾力的に変更することが必要となる。何よりその弾力的な変更可能性が、指定管理者制度を受託する民間事業者の自由度を担保する最大の理由である。過大・過小な統制の混然一体となったコンプライアンスと空洞化したリスクマネジメントによる「指定管理者制度における内部統制の不在」を適切な統制によるコンプライアンスの確保と成果志向によるリスクマネジメントによる「内部統制と指定管理者制度の最適化」に進化させる仕組みづくりに努めることが求められる。

宮脇淳みやわきあつし)
日本政策総研理事長兼取締役
北海道大学名誉教授

若生幸也(わかおたつや)
日本政策総研副理事長兼研究主幹
東京大学先端科学技術研究センター客員研究員

【民間化を見る眼】「PPP事業の内部統制」(宮脇淳・若生幸也).pdf
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